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抗癌剤脱毛予防の頭皮冷却療法

抗癌剤脱毛予防の頭皮冷却療法

Yahooニュース ヘッドラインには、あまり抗癌剤関連ニュースは出てきません。
今回、気になるニュースが出たので、解説しておきます。
今はこの頭部冷却療法に飛びつかないでください。
長文になります、失礼いたします。

抗がん剤の脱毛防ぐ=年内にも臨床試験スタート-スウェーデンの頭皮冷却装置
Yahooニュース 9月21日14時26分配信 時事通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090921-00000027-jij-soci

この記事の問題点を2点指摘しておきたいと思います。

★まず1点目。
抗癌剤の副作用として、 脱毛 があります。
毛根の細胞は活発に細胞分裂をしていますので、抗癌剤に反応してしまうのです。
抗癌剤の種類にも、個人差にもよりますが、かなり高率に脱毛する薬もあります。
とくに女性の場合、脱毛はかなりショックです。

そこで、かなり以前から 抗癌剤による脱毛を防ぐ方法について試みられてきました。
誰も配慮してこなかった、なんていうことは絶対にありません。
今回ニュースで流れた 「頭皮冷却療法」についても、すでに実施されてきました。
頭皮を冷却することにより毛根への血流を減少させ(冷えると血管は収縮することを利用)、毛根への抗癌剤到達を減らすことによる脱毛予防というコンセプトです。
ダンクールキャップ という名前の頭部冷却装置があり、一時期は試みられていました。
現在45歳以上の真面目な癌治療医であれば、ダンクールキャップを御存知でしょう。
真面目に癌治療をおこなってこなかった医師なら知らないかもしれませんが。
しかし、15年くらい前に、使われなくなりました。
頭皮冷却療法には、致命的な問題点があったのです。

頭皮冷却療法が否定されるに至った点は3つ
1:頭皮冷却しても、効果はそんなに明らかではなかった。
ギンギンに、頭痛がするほど冷やしても、期待したほどの効果がなかったのです。
2:頭部への癌の転移が認められたこと。
脳転移ではなく、頭の皮膚への転移です。・・・あとで解説します。
3:脱毛は直接死因にむすびつく副作用ではなく、また抗癌剤をやめれば毛髪はかなり回復する。つまり一時的な副作用であること。

とくに2の点、頭部皮膚転移が決定打になり頭部冷却療法は癌治療の現場から消えていきました。
全身抗癌剤治療は、微少な転移癌をたたきつぶす、というのも治療目的の一つです。
頭部血管を冷却し血流を減少させる、というコンセプトは、脱毛という目的のためには良いアイデアに見えましたが、頭部への抗癌剤量が減るため、当然の結果として頭部癌転移が出る危険性を持つのです。
血流が減り抗癌剤到達量が減れば、その部分の微少転移癌は死なずに残ってしまう。
そして、その懸念(頭部皮膚への癌転移)は現実のものとなりました。

一時的な副作用を防ぐ治療で癌転移が出る、ということは受け容れられません。
このため癌治療医は、脱毛について頭部冷却療法を放棄しました。
かわりに医療用カツラの開発がすすみ、医療用カツラの購入に補助がでるようになっています。
医療用カツラについては癌治療主治医、癌治療病院の相談室、あるいは私ども緩和ケア医にお尋ねください。

頭部冷却療法について詳細情報を調べたい方は、「ダンクールキャップ」として
グーグル検索してみてください。

★長くなりました。この記事への懸念2点目です。
今回の頭皮冷却療法を発表するのがソウルの学会、と書かれています。
それを見ただけで、ほとんどの癌治療医は眉にツバをつけます。
現在、癌治療についての臨床学会の最高峰はアメリカ癌学会ASCOです。
ASCOで発表に選ばれるための競争率はかなり高く、全世界の癌治療医はASCOで発表することを目標にしています。
いいかげんな研究計画ではASCO発表は認められません。
極端な言い方をすれば、ASCOで発表された内容が、世界の癌治療を動かしているのです。
ASCOで発表された内容は、数日のうちに全世界に伝達され、世界中の癌治療医はその最新情報に目を通しているのです。
(日本でも、当日・翌日のうちに英語版で、数日以内には日本語に翻訳されて医師限定サイトにASCO情報がアップされます。)

ソウルの学会?
アジア太平洋レベルの国際学会は、研究内容も方法もASCOに遠く及びません。
ASCOに落選した発表ばかりが集まっても、何の信頼できる情報もないのです。
審査もなく誰でも発表できる学会すらあります。
ですから、「国際学会で発表」、という記事は、何か意図的なものがないか、注意が必要です。
自分あるいは自分の研究発表にハク付けをしたい、とか何とか・・・。
良い研究であればASCOで発表できるはずなのです。
ソウルで発表、ということは、「何かしら信頼性に乏しい」、ということを世界が、そして自らが認めているようなものなのです。

★長くなりました。
結論です。
以上2点の懸念があります。
抗癌剤脱毛予防の頭部冷却療法については、今は飛びつかないようお勧めします。
頭皮に癌転移が生じるかどうか、5~10年待てば結果発表があるでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

写真は水ロケット(ペットボトルロケット)発射の瞬間。
P1100637.JPG
★新型インフルエンザH1N1情報
新型インフル、ワクチン費用を全国一律に
Yahooニュース 9月21日19時5分配信 読売新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090921-00000541-yom-soci
これまでは高齢者以外は自費による接種だったため、医療機関ごとに少々価格差がありました。
今回はそんな差をなくそう、ということのようです。
わかりやすく行きましょう。

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