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心に残る出会い11 耳鳴りに悩まされたMさん

2010年05月30日  

Mさんは93歳でしたが、とてもお元気でした。
膝が悪く、足が弱っているくらいのものでした。
2階で生活しておられたのですが階段を下りることができなくなり
病院への通院が不能になり当院の訪問診療が開始となりました。
御自宅で、長男夫婦さんとの同居でした。
日常生活はお嫁さんと娘さん、御家族で協力しておられました。

Mさんにとっての問題は、耳鳴りでした。
ずいぶん前から難聴で全く聞こえない状態になっていましたが
頭はしっかりしているので
筆談で日常生活は問題ありませんでした。
しかし数年前から、ひどい耳鳴りが生じるようになったのでした。

想像してみてください、
寝ているとき以外は耳もとで七つの鐘がグワングワンと
鳴り響く。と表現されていました。
一人で寝ている夜、音が毎晩毎晩鳴り響いて
眠れない、
とってもつらいことだと思います。
あまりのつらさにMさんは
夜中に隣近所に聞こえるくらい大きな叫び声をあげて
助けを求めるようになっていました。
総合病院で各種の精密検査や治療をおこなっても改善せず、
しかたなく精神科に入院し睡眠薬を調整してもらって
ようやく眠れるようになって退院していたのでした。

もう入院も通院もいやだ、したくない、
(通院するために階段を下りることもできない)
という状況で私の訪問診療がはじまったのです。

耳鳴りに効果のありそうな薬のなかで
これまでに試みられていない薬を順々に試み
少しは効果がありました。
調子のいい日にはきげんよく冗談も次々出ます、
もともと頭の回転もよく記憶もしっかりした方なのでした。
しかし、病状には波があり
耳鳴りがひどい時には
先生、死んだほうがましだ、
楽になる薬(安楽死する薬)はありませんか、
と何度もおっしゃいました。

抗うつ薬も開始し、死にたいという発言はなくなりました。
それからは安定した時期が続いていました。
お嫁さんにいつも感謝しておられ、私どもも
感謝の言葉を何回も聞かせていただきました。
しかし、
ある時から急に食欲がなくなり、一気に衰弱し亡くなられました。

耳鳴りに効果のある薬、というのは
ほとんどないのです。
もっといい薬があれば
何年も苦しむことはなかっただろうに、
と思われたことでした。

ひさしぶりに いぶしぎん に行きました。
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写真は鯛の刺身。
P1120316.JPG
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