適切な意思決定支援の指針

【履歴】
2022年9月12日 「適切な意思決定支援の指針」策定

1.目的

本人の意思を確認し、その人が「大事にしてきたこと、大切にしたいこと」を重視した医療を提供し、希望する生活を可能な限り支えるため、生きる力を引き出し、最期まで本人らしい人生を支えることを目的とします。

2.意思決定支援に求められる理念

①疾患や障がいの軌跡を踏まえ、さまざまな状態に応じた支援とそれらの移行期の支援について、外来・入院・在宅医療を通じて対応します。
②病状の変化に迅速に対応しつつ、複雑な病状と障害、からだやこころの辛さへの総合的な医療・ケアを提供します。
③医療、ケアと生活支援の統合的アプローチを行い、身体・心理・社会的問題への包括的アプローチを行います。
④利用者(本人と家族等)主体のチームアプローチ(IPW)を推進します。
⑤利用者(本人と家族等)のこれまでの生き方を踏まえ、これからの生き方を支えます。

3.在宅療養に即した意思決定支援の留意点

できるだけ慣れ親しんだ人や環境に配慮して意思決定支援を行います。医療・ケアの希望の合意内容は、その背景や理由に加え、人生観や価値観(大事にしてきたこと、大切にしたいこと)に関する情報も含めて、診療録に記録します。必要に応じ、また救急搬送されるような場合に備えて、内容が確認できるように家族等と共有します。

(1)意思決定支援の前提

①日常の診療の中でコミュニケーションを図り、意思決定の前提となる様々な情報を収集します。
②医師と本人の信頼関係を構築するために、日常から誠意ある診療を行います。
③アドバンストケアプラニング(人生会議)の基本通り、本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームで繰り返し話し合いを行うプロセスを尊重します。

(2)意思決定支援に際して

①意思形成の為に必要かつ十分な情報提供を行い、本人の大事にしてきたこと、大切と思うことを理解したうえで、本人の決定を優先した医療を提供します。
②本人のこれまでの人生に敬意を払い、相互の信頼を得るための努力を怠りません。
③本人が考えたくない、話したくないということも含めて、本人の意思を尊重します。
④病状の変化に迅速に対応するために、病状変化に応じた適切な医療とケアを提供します。
⑤暮らしのニーズの変化をアセスメントし、継続的な共同意思決定を行います。

(3)人生の最終段階において

①話し合いに基づく本人による意思決定を実現するため、多職種で協働しながら人生の最終段階における医療を提供します。
②人生の最終段階における医療行為の選択、医療内容の変更、医療行為の中止等は、本人の大事にしてきたこと、大切と思うことを尊重しつつ、多職種の専門性を有した医療従事者から構成される医療・ケアチームにより、医学的妥当性を基に慎重に判断します。
③医療・ケアチームにより、可能な限り苦痛や不安、その他不快な症状を十分に緩和し、本人ならびに家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行います。

4.本人の意思決定支援をした上での本人の意思確認

本人の意思決定能力は個々により違いがあります。私たちが支援することで、その能力を高めることが可能な場合もあります。意思決定能力に疑いがあっても、私たちがまず可能な意思決定支援をします。

(A) 本人の意思の確認ができる場合

①専門的な医学的検討を踏まえ、説明と同意(インフォームドコンセント)に基づく患者の意思決定を基本とし、専門職種で構成される医療・ケアチームとして意思決定支援を行います。
②治療方針の決定に際し、患者と医療・ケアチームが十分な話し合いを行い、患者が意思決定を行います。
③時間の経過、病状の変化、医学的評価の変更に応じて、また患者の意思が変化するものであることに留意して、その都度説明して本人の意思の再確認を行います。
④このプロセスは、患者の意向を汲み、家族等にも情報を共有します。

(B) 本人の意思の確認ができない場合

①家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の治療方針をとることを基本とします。
※なお、本人が意思を伝えられない状況になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定するものとして、あらかじめ確認しておくことは望ましい。
②家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の治療方針をとることを基本とします。
③家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、医学的妥当性に基づき、本人にとっての最善の治療方針をとることを基本とします。

(C) 複数の専門家からなる「話し合いの場」の設置

治療方針の決定に際し、下記の場合には複数の専門家からなる「話し合いの場」を別途設置します。専門家は医療・ケアチーム以外の者を加え、示された検討結果及び助言に従って療養の方向性を決定します。
①医療・ケアチームの中で、本人の病態等により医療・ケア内容の決定が困難な場合
②本人・家族等との話し合いの中で、妥当な医療・ケア内容の合意が得られない場合
③家族等の中で意見がまとまらない場合や、医療従事者との話し合いで、妥当な医療・ケア内容の合意が得られない場合

5.まとめ

意思決定支援においては、正解は無く、各人の多様な意思を尊重しながら支援していくことに留意しなければなりません。
医療従事者の価値観を押し付けることはせず、本人の意思を尊重しながら、対等な立場で共同して意思決定を合成し、誰しもが迎える「死」を少しでも納得できるものに近づけるよう、努めます。

参照文献
一般社団法人 全国在宅療養支援医協会 モデル指針2022
一般社団法人 全国在宅療養支援医協会 解説版2022
厚生労働省 人生の最終段階のおける医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018

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