心に残る出会い82 緩和ケア病棟を希望されたMさん
Mさんは77歳。
10年前に口腔癌が見つかり、手術、再発、手術を繰り返してきました。
その後、頬に再発しましたが、今回は積極的治療を拒否され
病院に通院しての緩和ケアのみ受けられていました。
しだいに口を開くことが困難になり
食事を摂ることも出来ませんので
胃瘻作成をすることとなり入院。
退院して御自宅に帰ることになり、
ここでようやく在宅チームへの依頼がありました。
御自宅で、私たちのはじめての出会いです。
マンションが建った時に入居して はや30年。
一人暮らしですが、どうしても家に帰りたかった、と。
他の病院への転院という選択肢は選ばれなかったのでした。
退院しても、いろいろ困難は続きます。
胃瘻から栄養注入の時間がもったいない、
何とかならないか、と相談がありました。
空いた時間で やりたいことがたくさんあったのです。
半固形タイプにすれば、注入そのものの時間は節約が可能です。
遠方の家族には頼らず、それくらいのことは自分でやる、と。
退院して3日後には、頬の皮膚が赤くなり熱を持ちました。
局所的な皮膚感染です。
これは抗生物質の内服で乗り越えます。
さらに3日後の夜間、
ノドの奥のほうからジワジワと出血が続き、
訪問看護が圧迫止血を試みましたが
場所が口の中ですので、うまく圧迫が出来ず、止まりそうにありません。
急きょ、病院に連絡して受診、処置していただきました。
出血部分を探し出し、焼いて止血するしか方法がなかったそうで
早めに病院に受診していただいたのは正解でした。
ベテラン訪問看護師の判断は、ほんとうに適切です。
その後、しばらくは安定した時期をすごすことが出来ました。
しかし次第に痛みがひどくなってきます。
痛み止めは基本は貼り薬の医療用麻薬。
頓服の鎮痛・解熱剤は 胃瘻から注入できるように 液体の製剤を用意します。
貼り薬の用量が次第に増えていきました。
癌は次第に大きくなります。
会話をするのも難しくなってきました。
つねにMさんから血の臭いが漂うようになってきます。
熱も繰り返し出るようになってきました。
Mさんは、しだいに不安を感じるようになってきました。
病院の外来受診予約日の数日前に
「緩和ケア病棟に入りたい」とMさんから相談がありました。
緩和ケア病棟は、たいていは順番待ちで、すぐには入れません。
まず入院のための面談がおこなわれることがふつうです。
そこで家から近い病院の緩和ケア病棟に入院面談の予約申込をおこないました。
病院の定期受診予約日に、緩和ケア病棟への入院面談をどうするか
子どもさん達にも集まってもらって
みんなで相談しましょう、ということになりました。
Mさんの癌は急速に悪くなり、
声も聞き取りにくくなってきました。
それだけではなく、薬の飲み間違いなどもおこすようになってきました。
そして病院での診察・病状説明、家族との相談の席で
「どこでもいいから早く緩和ケア病棟に入りたい、家の近くでなくてもいい」
とMさんの希望が出されたそうです。
病院の地域連携室があちこち連絡をとって、
空きのある緩和ケア病棟を見つけましたが
そこは市内といっても ずいぶん離れた場所にある病院でした。
でも、Mさんは その病院でいいから、お願いします、と。
入院までの2日間、
私たち在宅チームは 無事に家から送り出せるよう
最後の支援をおこないました。
不足する薬を追加したり、痛み止めを増量したり。
そうしてMさんは 希望どおり緩和ケア病棟に入院されたのでした。
なぜMさんは 急に緩和ケア病棟への入院希望を言われるようになったのでしょう?
息が詰まりそうだ、声が出しにくくなった、というのは、
とても不安になる症状です。
癌が大きくなり、声が出しにくくなってきたMさんは
一人で暮らすことへの不安がとても強くなっていたのでしょう。
しばらく後、Mさんは、緩和ケア病棟でお亡くなりになりました。
Mさん、緩和ケア病棟では、不安な気持ちが 少しは軽くなったでしょうか。
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