心に残る出会い95 社業を子どもさんに引き継ぎたかったHさん
毎月 最終日曜日は心に残る出会いです。
Hさんは70歳。
胃癌、肝転移で抗癌剤治療をおこなってきましたが、肝転移が急速に悪化してきました。
肝臓がほぼ全て腫瘍に置き換えられて、黄疸も出始めていました。
ある日、急に立てなくなり、救急車で病院に入院です。
電解質バランスが大きく乱れており、危険な状態でした。
点滴などいろいろな治療でバランスの補正はできましたが
食事もほとんど摂れず、もう立つことは困難な状況でした。
本人の強い希望で、退院して自宅に戻ることとなりました。
もう残された時間はありません。
今日、今から退院しますので、訪問診療をお願いします、と
連携室から在宅医療の依頼電話がありました。
はい、わかりました。
私たちは、こういった急な依頼にこそ しっかり対応できるよう心がけています。
その日の夜、御自宅にて私たちのはじめての出会いです。
担当医からの紹介状には、1週間くらいではないかと書かれておりました。
入院中に一番困ったことは、眠れないことだったそうです。
眠りたい、とHさん。
御自宅に戻られたのですから 眠れるといいですね。
結局その夜はあまり眠れなかったようです。
翌日昼の訪問診療のときには眠っておられました。
今後の予測について御家族に説明し、御家族の御希望などをお聞きします。
その日は かなりぐっすり眠れたようで
翌日には しっかりされ いろいろなお話を聞くことができました。
本人の意志も確認し、病院には戻らず最期も家で。
戦後、今の場所で会社を設立され、がんばってこられている方でした。
よい意味でのワンマン社長。
被爆後の広島は、Hさんのような方々によって復興をとげてきたのです。
自分には学歴がない、それで息子達には先で役立つ資格を取らせた、娘には手に職をつけさせた、というのが Hさんの自慢話でした。
目が覚めている時には、会社のことについて息子さんにいろいろ伝授をされたようです。
Hさんは急速に衰弱がすすみ、眠っていることが多くなりました。
また、しだいに痛みもでてきて、オピオイドを開始する状況となってきました。
そうして、退院して1週間。
Hさんは御自宅で静かにお亡くなりになりました。
Hさん、息子さんへの引き継ぎは、もっと時間が欲しかったでしょうね。
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