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心にのこる出会い159 誤嚥性肺炎でも家に帰ったOさん

2023年03月26日  

桜、思ったより開花スピード 早いですね。
吉島公園の下の段は ほぼ満開です。(木による)
土手の桜は来週見ごろか、と思っていましたが
今日あたり じつは見ごろかもしれません。

 

さて、毎月最終日曜日は 心にのこる出会いです。

Oさんは96歳。
もともと軽度の認知症はありましたが、一人暮らしをしていました。
近所に住む娘さんが 毎日のように様子を見に来てくれておりました。
ある時、膵炎をおこして入院しました。
膵炎は改善して退院はしたものの、ほとんど食べられません。
これは、毎日の点滴が必要だし、このまま看取りになるかも。
ということで 急きょ在宅医が必要となり、ケアマネージャを通じて訪問診療の依頼があったのでした。
御自宅で 私たちの はじめての出会いです。
入院中から ほとんど食べられていなかったそうですが、「認知症があるため 早く退院しましょう」、ということになったのだそうです。
Oさんは 病院はキライ、もう入院しない、と意志表示されました。

Oさんの 生活歴や こだわりを 聞いていきます。
それは 1つには 好きな食べ物のヒントはないか、探ってみるためでもあります。
Oさんは 戸河内の出身でした。
戸河内病院に入院していたこともあります、と。
おや、そうですか、当院の先代院長の折口清寿は 戸河内病院に勤務していたことがあるんですよ。
一家で戸河内病院の官舎に住んでいたことがあるんですよ。
そういった所から 打ち解け、信頼関係を作っていく糸口を見つけていきます。

戸河内の出身ですから、好きな食べ物、食べたい物といえば 山菜です。
好きな食べものは、フキ、ワラビ。ミョウガ(自分で栽培していた、と)。
つくしは好きだけど処理が面倒なのよねー。

それを聞いて、フキは 娘さんが 炊いてくれました。
それだけでは栄養がないので、ちくわなどの練り物を一緒にしてもらって。

私たちは 広島ブログのお友達Yさんのところ(志和町)で
食べられるつくしの場所を御案内します、と言われたので取りに行き、
つくしの卵とじ作って、それを訪問診療のときに持参して 食べてもらいました。
そうして少しずつ食べる量が回復し、 半年以上かかって、ようやく 「もう点滴しなくても大丈夫」ということになったのでした。

体力は回復してきたのですが、認知症はじょじょに進行していきます。
Oさんは、徘徊して自宅に帰れなくなったり、
電子レンジで食品を焦がしたりすることが みられるようになってきました。
これでは自宅では難しい、ということで 施設に入所されたのでした。
その施設は、これまでの担当医が 継続して訪問診療することが可能でしたので
私たちが引き続き担当させていただきました。

しばらく安定した状態が続いていたのですが
やっぱり認知症はじょじょに進行していきます。
今度は、寝ている時間が多くなり、食事もムセがみられるようになってきたのです。
そうして ある日、朝食をノドに詰め、救急車で搬送されたのでした。

病院での処置で、見える範囲の固形物は除去されたのですが、肺に落ちこんでいる物が多量にあり、すでに誤嚥性肺炎はおこしていて状態は悪い。
入院して加療しても 助かる可能性は低い、 入院すれば面会は出来ない(注:コロナ第8波で 病院は大変な時期の真っ最中でした)。
と 救急担当医から説明を受けたのでした。

そこで娘さんは Oさんを 御自宅(娘さん宅)に連れて帰る決断をされたのでした。
本人は もう入院しない、と言っていたし、会えないままのお別れでは心残りになるから。
娘さんの夫も 「いいよ」、と 言ってくれました。

在宅看取り方針で 今から連れて帰る、と連絡がありました。
在宅チームも至急で動きます。
ただちに介護ベッドを手配して、在宅酸素を手配して。
頻回に訪問をおこないました。

2週間ほど、母と娘の最後の時間をいっしょにすごし、
Oさんは静かに旅だっていかれました。
隣に寝起きしている娘さんも気づかないほど 静かな旅立ちでした。
昔は母に食べさせてもらった、おしめも替えてもらった、頭もなでてもらった。
それを全部 私が母にしてあげることが出来て 幸せです、と娘さんは話してくれました。

 

【解説】
誤嚥性肺炎は 死因上位の疾患です。
どんなに治療をおこなっても、助からない人が多い病気なのです。
病気を治すのは 結局は「自分の体力」ですので、
体力の衰えている超高齢者では 助からない人が多くなるのは 仕方ないことです。

ですから、
「入院して治療することがベスト」とは 言えません。
日本呼吸器学会の肺炎治療のガイドラインでも
繰り返す誤嚥性肺炎では 「緩和ケア」が選択肢に あがっています。
入院治療で治癒を目指すのではなく、「苦しいのを軽減してあげ、人生の残り時間を有意義に生きる」方向を目指す。
そういう段階にさしかかっている人もいる、ということです。
そうなりますと
入院が当然 とも言えず、「在宅」が 本人・家族にとって 望ましい場合も あるのです。
「在宅緩和ケア」というのが あるのですから。

今回、Oさんを診察した救急担当医は
御家族に 懇切ていねいに状況や見通しを説明してくださいました。
その相談の結果を 私たち在宅チームにも 直接 電話で説明してくださいました。
「もし これが私の母親や祖母であったなら」
やはり入院ではなく、自宅で、という選択をしたであろうと考えます。
救急担当医の先生も おそらく同じ気持ちであったのだろうと思います。

 

吉島公園 下の段の桜。
25日(土曜日)午後です、9分咲きという感じです。

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