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心に残る出会い34 老人ホームのKさん

2012年06月24日  

昨夜は広島市医師会夜間急病センターで勤務でした。
内科の患者数は少ないものの、40℃前後の発熱が何人もおられました。
念のためのインフルエンザ検査は陰性です。
そのうちの1名は肺炎でした。
若い人を中心にマイコプラズマ肺炎が流行しています。
マイコプラズマにはセフェム系・ペニシリン系の抗生物質は効きませんし、
よく使われるマクロライド系に耐性のマイコが増えています。
このため、ミノマイシン(内服あるいは点滴)などを必要とすることがあり
早めに受診をしてください。

心に残る出会い、今回は老人ホームの方です。
このたび当方が実施する厚生労働省のモデル事業では
老人ホームなど施設での看取りを安心しておこなっていけるための
ネットワーク・システムの整備も主たる事業到達目標としています。

Kさんは92歳。
認知症があり、特別養護老人ホームに入所していました。
すでに夫は死亡、2人の子どもたちも亡くなっていました。

ある日、転倒して大腿骨を骨折。
整形外科・外科の某病院に入院し、手術を受けました。
Kさんの入院中に その特別養護老人ホームの嘱託医が
都合で当方に変更になっておりまして、
歩けるようになり退院してきたKさんとはじめての出会いです。

退院報告書にはC型肝炎、と書いてあります。
入院時、特に手術前にはB型・C型肝炎の血液検査をするのは一般的なことです。
職員の針刺し事故などがおこれば、すぐに対応する必要があるからです。
でも、退院報告書を読んでも、内臓検査はおこなわれていません。
診察してみると、上腹部に固まりを触れます。
そこで肝臓癌の腫瘍マーカーを測定してみたところ
非常に高い数値です。

内科医のいる別な病院に精密検査を依頼したところ
5cm大の肝臓癌と判明しました。
御家族と相談しましたが、
認知症もあり、体力もあまりなく、
がんに対する積極的治療は希望されませんでした。
痛くないように、苦しむことがないように、
ということだけが御家族の希望でした。
このまま最期まで施設でみてほしい、と希望されました。

Kさんは、週1回の私の診察をとても楽しみにしてくれていました。
私が行くと満面の笑顔で、
先生はどこから来たん?
先生の手はすべすべでいいわねえ。
今度なにか食べに連れて行ってよ。約束よ!
等々・・・
認知症があるので、
毎回同じような内容の会話が繰り返されていたのでした。
先生はどこから来たん?
・・・

ときどき血液検査をしながら経過観察していましたが
腫瘍マーカーの数字はどんどん高くなり、
ついには測定上限値を超えてしまいました。
腫瘍も、少しずつ、確実に大きくなってきます。
お別れの日は、確実に近づいています。

その間、施設では職員全員の勉強会がおこなわれていました。
実はその施設では、数年の間、看取りがなかったのです。
癌末期の入所者もいることはいたのですが、
下血するなどして緊急入院し亡くなられるなど、
施設で最期まで、というケースがなかったのです。

今後、どのような経過をたどるか、という予測。
どういった症状が出る可能性があり、
私達はそれにどう対応していけばいいのか。
救急車を呼ぶのは どういう時か。
などなど勉強していきました。
もちろん勉強会の講師は私です。

介護系の職員は若い人が多く、
臨終に立ち会ったことがない人がたくさんいます。
そういう若者にとって、
死を「こわい」 と思うのは、仕方ないことです。
でも、
肝臓癌は痛みで苦しむケースはあまりないこと、
最期近くなると肝性脳症で次第に昏睡に向かうこと。
食道静脈瘤破裂による大出血を除けば
救急車を依頼するような事態にはならないだろうこと、
そういったことを学びます。
「こわい」かもしれないが、
Kさんはこの施設のみんなが大好きだし、
Kさんの御家族も私達を信頼してくださり、
最期までここで、とおっしゃってくださっている。
その思いに、応えようではありませんか!
施設での看取りはけっして難しいことではありませんよ!!

予測は、いいほうにはずれました。
正月が1回越せたら、と思っていたのですが、
2回目の正月も迎えることができました。
次第に食事量は減り、眠る時間が長くなってきましたが
最期まで強い痛みが出ることはありませんでした。
最期の日も、いつもどおり少し食事を口にすることが出来ていました。
夕方から血圧がさがりはじめ、
その夜、Kさんはしずかに永眠されました。
仲の良かった入所者の人たちに見送られ、
多くの職員に見送られて
Kさんを乗せた葬儀社の車がホームを後にしていきました。

過去の当院グリーンカーテンは
ゴーヤを中心に、ちょっぴりの朝顔、というものでした。
(朝顔は NAOKO☆アサガオ といって
宇宙飛行士 山崎直子さんと宇宙を旅して帰ってきた朝顔です。)
今年のグリーンカーテンは色とりどりにしよう、と
沖原園芸さんで各種購入しています。順調に生育中。
沖原園芸さんのブログはこちら ↓
http://okiharaengei.blog7.fc2.com/
アサリナのピンク 小さくきれいな花が咲いています。
a asarinapi.JPG
★インフルエンザ情報
とくに新しい情報はありません。

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