心にのこる出会い166 治療不能を受け止めることが出来なかったIさん
昨日は日本宇宙少年団広島分団の活動で観望会でした。
木星、土星は見ごろです。
すこし大きい望遠鏡ですと、海王星も見える位置におります。
今日あたり、月のすぐ近くで ものすごく明るい星が 木星です。
ぜひ夜空をお楽しみください。
さて、毎月 最終日曜日は 心にのこる出会いです。
Iさんは86歳。
約1年前に 膵臓癌が見つかりました。
S病院で手術を受けたのですが、3ヶ月後には 多発肺転移が出現しました。
体力を消耗しており、抗癌剤治療は困難、と 判断されたのでした。
Y病院に転院して術後のリハビリをおこなっていたのですが、
そのさなかに 今度は肝転移も見つかりました。
かなり急速に癌は進行しています。
その説明を受けたIさん。
「化学療法はやらないのか? やってみないとわからないだろう」 と言われたそうです。
しかし、Y病院でも 体力がないので化学療法は出来ない、と判断されたのでした。
Iさんの残り時間は少ない。
すぐに自宅に帰ったのですが、もはや病院への外来通院は困難でした。
病院の患者支援センターから依頼があり、当院が訪問診療にはいることになりました。
Iさんのお宅で 私たちのはじめての出会いです。
Iさんは 小学生のときに被爆しておりました。
食糧難で カエルも食べたそうです。
大学は 行きたい希望の大学があったのですが、受験に落ち、隣県の大学に進学。
Iさんにとって 希望の大学を落ちたことが 人生最大の後悔だそうです。
何度でもその話をするんですよ、と奥さんが言われましたが、
じっさい私たちも その話を何度も聞くこととなったのでした。
3回目の訪問診療のときに
Iさんは、「もう一度手術できないか、執刀医から話が聞きたい」、と。
「私は 癌を消す処置が受けたいんだ。」
多発肺転移、肝転移があるのですから、手術は出来ない、という説明は聞いているはずなのですが、そのように話をされたのです。
あれれ、病院での説明が 耳を素通りしていたのかな???
病状を受け止められて いないのかな?
そうするうちに、手術した部分に膿が貯まり、入院して処置を受けました。
その退院後も 癌の治療を受けたい、受けたい、と 繰り返し言われていたようで、
息子さんから 相談がありました。
「本人があれだけ治療を希望するので 分子標的薬などはどうだろうか? オプジーボなど。」
奥さんによると、 それもすでに県病院や大学病院に聞いてはみたが、ダメということだった、とのことでした。
この種類の薬は、膵臓癌は適応疾患ではないんですね。(2023年9月時点)
どこの病院に聞いても そりゃ「ダメ」と答えるしかないのです。
Iさんは 食事が摂れなくなってきました。
家で最期まで、というのは 考えていない、ということであり、
某病院の緩和ケア病棟に面談、申込をすませました。
早めに親戚や友人に会っておくことをおすすめし、
お孫さんたち全員にも 会っていただきました。
その翌週には、腹がはって苦しい、と入院を希望され、
その次の週に 緩和ケア病棟でお亡くなりになりました。
Iさん、術後の再発、転移というのは 受け止めることが難しい話でしたよねえ。
【解説】
緩和ケアの領域では 「悪い知らせを伝える」というのが
大きなテーマの一つとなっています。
それは 緩和ケア領域に限らず、すべての医療分野で生じる話でもあります。
「悪い話」とは
たとえば 癌という診断であること。
手術適応がないこと。
あるいは術後の再発・転移が見つかったこと。
これ以上 抗癌剤を続けられなくなってきたこと。
(あるいは 分子標的薬などの適応がないこと)
などなど。
それを受け止める患者・家族は つらいです。
その話をする医療者側も つらいです。
でも
わかりやすく、誤解の生じないように、得心いくように お話をせねばなりません。
一度ではなく、繰り返しお話が必要となる方も多いです。
話の冒頭部分だけで ショックを受けて、
その後の話は全く覚えていない、という方も多いくらいです。
どうやって家に帰ったのかも 思い出せない、ということも あります。
それほどショックを受ける話です。
多くの方は 時間をかけて 告知の内容を 受け入れていかれます。
しかし、なかには 受け止め切れない方もおられます。
「まだ何か 「特別な」治療法が あるんじゃないか・・・。」
Iさんの場合は、
御家族が 癌に効くとネットに出ていた○○キノコのナンチャラを買ってきたのですが、
「そんなものは効きはしない。癌患者を食い物にするニセモノだ」と 拒否をされました。
そういう判断は きちんと出来ている方でした。
そういう方であっても、もはや治療法はない、ということを 受け止めるのは 難しいことなんですねえ・・・。
【業務連絡】医師募集。内科・外科・総合診療科・緩和ケア科に限りません。
新型コロナ対応をきっかけに
「医療の在り方」、「医療の目指すべきもの」について
考えを深めた方・考えを改めた方も多いと思います。
もし
「今は東京や大阪(等)で働いているが、地元広島に帰って働きたい」
とか
「病院勤務医よりも もっと患者に寄り添いたい」
「今の病院の勤務形態では 体を壊してしまうのではないか」
「これだけ命を張って働いているのに、むくわれないというのは、病院というのはおかしいのではないか」
など考えはじめた医師の方は どうぞ当院に御連絡ください。
「給料よりも 生きがい・働きがい」を求めている方、よろしくお願いいたします。
(「給料優先」という方は、イナカの病院なら「過疎地手当」が上乗せされますし、
医師求人サイトで探されると「高給優遇」のところは見つかると思います。
ただし、高給優遇で求人するということは、キツい職場、あるいは やりがいは少ない職場だ(やり手がいない)という覚悟は必要です。)
広島はコンパクトな街で、衣食住、そして働くにも子育てにも いい所だと太鼓判押せますよ。
当ブログを御覧になり、院長の理念に賛同された方、どうぞ御連絡よろしくお願い申し上げます。
在宅診療は楽しいですし、在宅緩和ケアは やりがいありますよ!
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