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心に残る出会い53 船釣りが好きだったSさん

2014年01月26日  

昨日は、急きょ、広島市医師会夜間急病センターで勤務でした。
勤務予定の医師が急に出務できなくなり
ピンチヒッターとしての勤務です。
患者数は多く、内科はかなり忙しかったです。
患者は、インフル、胃腸炎、インフル、胃腸炎・・・
という具合で
約40名の受診者のうち、14名程度がインフル陽性、
ほぼ同じ程度の数が呕吐下痢症。
ほとんどがノロと思いますが、急病センターではノロ検査は出来ません。
ほかには扁桃炎や膀胱炎。
そのほかでは妊娠関係が数名受診されました。
妊娠していて出血した場合は、夜間急病センターは内科だけなので無理です。
最初からかかりつけの婦人科に御相談ください。
妊娠していて、薬もあまり使いたくない、という場合には
下痢で受診されても整腸剤程度しか出せません。
市販の整腸剤を服用し、水分をとって家で安静に休む、
というのがよいと思います。
インフルやノロが多数押し寄せる急病センターに来るのは
これらの病気に感染する危険性を増やします。
この時期に病院や急病センターを受診するというのは
インフルやノロなどの感染症にかかる危険性を高めるという覚悟はしてください。
なにしろ、そんな患者さんがほとんどですので。
受診するメリットとデメリットを天秤にかけて判断してください。
受診せず、水分をしっかり飲んで、安静に寝ている、
という選択のほうがよい場合も多いと思います。

さて、
毎月最終日曜日は心に残る出会いです。

Sさんは70歳。
電気関係の会社を経営していました。
数年前に妻を癌で亡くし、一人暮らし。
その後、本人も肺癌となり闘病しながら生活していました。
抗がん剤を使用すると、ひどい食欲不振と吐き気がくるため
在宅での管理を希望されて、私たちのはじめての出会いです。
病院での通院治療は続ける、
しかし家でしんどいのを何とかしてほしい、
というのが御希望でした。
抗がん剤のあと、しんどくて丸3日動けないのだ、と。

毎回の抗がん剤点滴のあとは吐き気がきますが
治療医にはそのことを伝えていなかったため
吐き気や食欲不振に対応する薬は処方されていませんでした。
そのため、吐き気止めや漢方薬、ステロイドの処方を開始します。
食事は自分で料理していましたが
次第に作ることもむずかしくなり、
何でもぶっこんだ「おじや状態」のものを少し食べるだけです。
処方箋で出せる缶入りの流動栄養食を試み、
これはいいわ~飲みやすいし~、ということで
何とか栄養を補給している状態でした。

抗がん剤治療は、繰り返すごとに次第に副作用が強くなります。
ほとんど食べられず、嘔吐もみられるようになり、
ついに抗がん剤治療は終了となりました。
胸水もたまり在宅酸素も開始。
痛みもしだいに強くなり、麻薬の量が増えていきます。
治療医からは緩和ケア病棟への入院がすすめられました。

Sさんには、子供がいませんでした。
めい夫婦が転勤で、ちょうど広島に来たところでした。
Sさんの世話をするために広島に来たようなものですよ、
と明るく笑って身の回りの世話をしてくれます。
しかし、Sさんの病状は次第に悪化していきます。
朝、目がさめて痛み止めを飲み、
痛み止めが効いてくるまでの時間が不安でこわくてたまらない、
とSさんは言うようになり
ついに緩和ケア病棟への入院を決心しました。

K病院緩和ケア病棟に入院し
一時は安定して、いったん退院しましょうか、
というくらいの状態に落ち着きました。
緩和ケア病棟では、ボランティアによる各種イベントがおこなわれます。
ミニコンサートなど、Sさんは楽しみにしていました。
自分は音楽を聴くような人間ではなかったが
音楽がこんなに気持ちが安らぐとは思わなかった、
と、にっこりとおっしゃっていました。
書道の上手なSさんは、書道も心が落ち着く、と
書道のイベントへの参加も楽しみにしていました。
緩和ケア病棟にはいって良かった、とSさん。

Sさんは、フィッシングボートを所有していました。
仲間と船釣りを楽しんでいたのです。
釣り仲間もときどき病室に顔を出して
いっしょに昼食を食べたりしてくれていました。
冗談もでて、なごやかな時間が流れます。

私たちも、K病院に用事があるたびにSさんの病室に顔を出しました。
「秋までにはボートを処分しようと思うんじゃ。」
「では、それまでに何とかもう一回、船で釣りに出られたらいいですね、
その時は私もいっしょに船に乗りますよ。
私も船釣り好きなんです。
みんなで一緒に釣りしましょうかね。」

しかし、Sさんが病院を出ることはできず、
船に乗るチャンスが来ることはありませんでした。
Sさん、一度はいっしょに船で海に出たかったですね。

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