心に残る出会い90 戦争の話をすると涙ぐむHさん
毎月、最終日曜日は心に残る出会いです。
Hさんは87歳
ある日、御本人と息子さんが一緒に当院を受診されました。
脳梗塞で左半身麻痺と認知症があり、いずれは動けない日が来るであろう、
その時に引き続き訪問診療で診てもらえる医師、に
今のうちからお願いしたい。
息子さんが検索して、当院を受診された、とのことでした。
実際に、自宅ですごすのは困難となってきて
特別養護老人ホームに入所されました。
そのホームには、近所の医師が担当するような制度があり、
Hさんも その先生に担当していただくはずだったそうですが
本人・御家族の強い希望で 当方が担当医を継続することとなりました。
(ホームと当方とで新規に契約をむすぶことが必要でした。)
私どもは、すべての方に
どこで生まれ育ち、どんな仕事をされてきたか、
とくに戦争や原爆の時には どうされていたか?
ということを 必ず聞くようにしています。
初回に全てを聞く時間もないですし、
とてもデリケートな内容にもなりますので
信頼関係を築きながら 少しずつお話を聞いていきます。
Hさんは、認知症が進行していきます。
最初は自分の名前を書くことも出来、
私たちの顔を見ると 「やあ!」と手を上げてあいさつされることも出来ました。
しかし、次第に 出来ることが少なくなってきます。
認知症のため、聞くたびに話のつじつまが合わないことがあります。
しかし、昔の話は なんとか記憶がたどれます。
どうやら呉の海軍工廠の関係で造船に従事していたらしい、
ということはわかりました。
しかし、戦争中の話になると 毎回 涙ぐまれます。
とくに空襲の話では涙がこぼれ、話が止まってしまいます。
つらい記憶をよみがえらせてしまっているのでしょう。
それより深く話を聞くことは出来ませんでした。
何か私たちに伝えたいことがあるようなのですが
それ以上は もうHさんの言葉が出てこないのです。
Hさんの食欲が次第に落ちてきました。
以前、骨折で病院に入院したことがありますが
認知症があるので入院生活はいいことにならなかった。
そのため御家族も入院は希望されません。
このまま、ホームで可能なだけの介護で
しずかに最期を迎えられました。
Hさん、
戦中戦後を 苦労されて生きてこられたのですね。
もう少し記憶がしっかりしているうちに お話を聞きたかったですよ。